2012年5月アーカイブ

 アメリカ連邦最高裁判事として有名なホームズ判事の言葉に「君たちが悔いのない仕事をしたいなら、君たちは時代の苦悩の中に身を置かねばならない。」という言葉があります。およそこの社会の争いは、社会の矛盾、時代の矛盾の中から生まれてきます。会社の倒産も労働事件も、家庭内の紛争も、根っこのところでは現代の矛盾、貧困化、クローバリズム、新自由主義などが基にあります。私も時代の苦悩の中に身を置いてそこから一つ一つの事件を解決していきたいと思っています。
甲斐の杜法律事務所では、暴力団員やその関係者の事件を受任しません。暴力団員の方にも人権はありますし、刑事手続きは守られなければなりません。ですから、弁護士が暴力団員の弁護をしても、問題はありません。しかし、私は、社会的に違法な団体を守ることには抵抗があります。それならもっと困っている人の救済に労力を使いたいという気持ちで、これらの団体や関係者の事件をお断りしています。もっとも、国選事件で、裁判所から依頼される事件は、受任することにしています。
もうずいぶん前のある夜のことです、私は溜った仕事がやりきれず、事務所で遅くまで仕事をしていました。夜9時か10時を過ぎた頃でしょうか。事務所の電話が鳴りました。電話に出ると、相手は名乗りもせず、突然「自分は今さっき人を殺してしまいました。そんな自分でも相談に乗ってくれますか」と言いました。びっくりしました。しかし、こんなとき弁護士は答えるのに躊躇してはいけないのです。弁護士の答えはこうです。「弁護士の最大の仕事で、最大の義務は依頼者の秘密を守ることです。どんなに優れた弁護士でも、これができなければ失格です。弁護士はあなたを警察に突き出したり、通報はしません。自首を勧めるくらいのことはあるかもしれませんが、安心して相談に来てください。」結局、その人は相談にやってきました。もっとも、その方は殺人者ではありませんでしたが、しかし、他人から見れば、それほどのことではなくとも、本人にとっては、殺人を犯したのと同じくらい深刻なことはあるものです。殺人者の秘密をも守ってくれるなら、自分のことも守ってもくれるに違いないというのが、弁護士に対する信頼なのです。
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