2013年3月アーカイブ

 弁護士と依頼者との間で最も大切なものは信頼関係です。信頼関係が作れない以上、幾ら着手金が高額でも弁護士は仕事を受任しません。また、依頼者もその弁護士がいかに優秀であっても、信頼関係が築けない弁護士を依頼してはいけません。それは、なぜかと言うと弁護士にとって依頼者の抱えている事件は「他人ごと」なのです。民事の裁判で負けても弁護士がお金を支払う訳ではありません。打撃を受けるのは依頼者です。刑事の裁判で負けても弁護士が刑務所に入るわけではありません。刑を科されるのは依頼者です。また、弁護士は、決まった商品を販売したり、メニューどおりの食事を提供するような、依頼者に定型的に決まったサービスを提供するのではありません。弁護士が1つの事件を丁寧にすれば際限なく時間をかけることができますし、簡単に済ませようとすれば最低限の時間と努力で終わらせることも出来ます。加えて、裁判の手続も法律も依頼者には分かりにくく、弁護士が手を抜いても依頼者には分かりませんし、逆に弁護士が一生懸命にやっていたとしてもそれもよく分かりません。このような弁護士の仕事を言い換えれば、「助っ人(すけっと)家業」なのです。信頼関係があって、「この依頼者をなんか助けてあげたい」と思えば、弁護士は際限なくいい仕事をしますが、信頼関係が築けず、「うるさい依頼者だから」とか「弁護過誤で訴えられるかもしれないから」と仕方なしにやっていれば、弁護士の仕事は際限なく雑な仕事になってしまいます。ですから、依頼者と弁護士との関係は信頼関係がなければ成立しえない関係なのです。局面は違いますが、芸術家や工芸職人の仕事に似ています。魂が入っていなければ、時間をかけても駄作になってします。この魂が弁護士にとっては信頼関係といえるものなのです。
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